登録販売者試験の解説とポイントを過去問題にフォーカスして記載していきます。
厚生労働省の試験問題作成の手引きを基に分かり易い内容に変えて解説しています。
過去問題から作成したポイントテストもありますので、
是非解いて見てくださいね。
独学で学ばれている方も含め問題なく解けることが実感できるかと思います。
また第3章全体のポイントについては、第3章-1日目:Ⅰ-①:かぜ薬をご覧ください。
2 殺虫剤・忌避剤
ハエ、ダニ、蚊などの衛生害虫の防除を目的とする殺虫剤・忌避剤には医薬品や医薬部外品が存在します。
医薬部外品:人体に対する作用が緩和な製品
医薬品:人体に対する作用が緩和とはいえない製品
忌避剤は人体に直接使用されますが、虫さされによる痒みや腫れを和らげるものではありません。
1)衛生害虫の種類と防除
(a) ハエ
ハエは、O-157大腸菌などの病原菌や赤痢アメーバなどの様々な病原体を媒介します。
また、体内や皮膚に幼虫(ウジ)が潜り込み、直接的な健康被害を与えるハエ蛆症と呼ばれる症状もあります。
ハエの防除の基本は、ウジの防除です。通常、有機リン系殺虫成分の殺虫剤が用いられます。
(b) 蚊
蚊は、吸血によって発疹や痒みを引き起こすほか、日本脳炎、マラリア、黄熱、デング熱などの重篤な病気を媒介します。
水のある場所に産卵し、幼虫(ボウフラ)となって繁殖します。
ボウフラの防除:
水系に殺虫剤を投入するため、生態系に与える影響を考慮する必要があります。
成虫の防除:
医薬品の殺虫剤も用いられますが、一般家庭では調製を要さずそのまま使用できる医薬部外品の殺虫剤が用いられることが多いです。
(c) ゴキブリ
ゴキブリは、食品にサルモネラ菌、ブドウ球菌、O-157大腸菌等を媒介します。
また、アメーバ赤痢などの中間宿主になっています。
ゴキブリは、暗所、風のない場所、水分のある場所、暖かい場所を好むため、該当箇所を中心に防除するのが効果的です。
燻蒸処理を行う場合、ゴキブリの卵は浸透しにくい殻で覆われており、殺虫効果を示しません。そのため3週間位後に、もう一度燻蒸処理を行い孵化した幼虫を駆除する必要があります。
(d) シラミ
シラミの種類ごと寄生対象の動物が決まっており、動物に寄生するシラミがヒトに寄生して直接的な害を及ぼすことはありません。
ヒトに寄生するシラミによる害としては、吸血箇所の痒みと日本紅斑熱や発疹チフスなどの病原細菌であるリケッチアの媒介です。
シラミの防除は、医薬品による方法と物理的方法もあります。
物理的方法:
散髪や洗髪、入浴による除去、衣服の熱湯処理。
医薬品による方法:
殺虫成分としてフェノトリンが配合されたシャンプーやてんか粉が用いられます。
(フェノトリンは殺虫成分であり、痒みや腫れを和らげる作用はありません。)
(e) トコジラミ
シラミの一種でなくカメムシ目に属する昆虫です。
トコジラミに刺されると激しい痒痛を生じ、ときにペスト、再帰熱、発疹チフスを媒介することもあります。
トコジラミは床や壁の隙間、ベッドなどに潜伏します。
防除にはハエ、蚊、ゴキブリと同様な殺虫剤が使用されますが、体長が比較的大きいので電気掃除機で吸引することによる駆除も可能です。
(f) ノミ
ノミの害としては吸血されたときの痒みですが、元来、ノミはペストなどの病原細菌を媒介する衛生害虫です。
ノミはシラミと異なり、ペットなどに寄生しているノミから人への被害がしばしば発生しています。
ノミの防除には、ペット用のノミ取りシャンプーや忌避剤などが用いられます。
また、電気掃除機や殺虫剤による駆除を行うことも重要です。
(g) イエダニ、ツツガムシ
イエダニ:
ネズミを宿主として移動し生息場所を広げていきます。
吸血による激しい痒みを生じ、また、発疹熱などのリケッチア、ペストなどを媒介します。
イエダニの防除には、まず宿主動物であるネズミを駆除と併せて、殺虫剤による燻蒸処理が行われます。
ツツガムシ:
ツツガムシ病リケッチアを媒介するダニの一種です。
野外に生息しており忌避剤のほか、肌の露出を避け野外活動後は入浴や衣服の洗濯を行うなどの防御方法があります。
(h) 屋内塵性ダニ(ツメダニ類、ヒョウヒダニ類、ケナガコナダニ)
屋内塵性ダニの防除には生活環境の掃除、換気を十分行うことが基本とされています。
殺虫剤を散布する場合には、湿度がダニの増殖の要因になるため水で希釈する薬剤の使用は避け、エアゾール、粉剤が用いられます。
医薬品の散布が困難な場合には、燻蒸処理などが行われます。
ツメダニ類:
通常は他のダニや昆虫の体液を吸いますが、ヒトを刺さすこともあり、刺された部位は赤く腫れて痒みを生じます。
ヒョウヒダニ類、ケナガコナダニ:
ヒトを刺すことはありませんが、ダニの糞や死骸がアレルゲンとなって気管支喘息やアトピー性皮膚炎の原因となります。
ポイントテスト1
下記問題を正誤で答えよ(回答は下)
(1)ゴキブリの卵は、医薬品の成分が浸透しやすい殻で覆われているため、燻蒸処理を行えば、殺虫効果を示す。
(2)シラミは、散髪や洗髪、入浴による物理的方法では防除できないため、医薬品による防除が必要である。
(3)ノミによる保健衛生上の害としては、主に吸血されたときの痒みであるが、元来、ノミはペスト等の病原細菌を媒介する衛生害虫である。
(4)ハエの防除の基本は、ウジの防除であり、その防除法としては、通常、有機リン系殺虫成分が配合された殺虫剤が用いられる。
(5)蚊の幼虫(ボウフラ)の防除は、水系に殺虫剤を投入するため、生態系に与える影響を考慮して適切な使用が必要である。
回答と解説
ポイントテスト1
(1)×:ゴキブリの卵は浸透しにくい殻で覆われている。
(2)×:物理的防除も有効。
(3)〇
(4)〇
(5)〇
2)殺虫剤・忌避剤の代表的な成分
殺虫作用に対する抵抗性を避けるため、いくつかの殺虫成分を順番に使用していくことが望ましいとされています。
(a) 有機リン系殺虫成分
- ジクロルボス
- ダイアジノン
- フェニトロチオン
- フェンチオン
- トリクロルホン
- クロルピリホスメチル
- プロペタンホス
アセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)と不可逆的に結合し阻害することで、殺虫作用を示します。
ほ乳類や鳥類では速やかに分解・排泄されるため毒性は比較的低いです。
ただし、高濃度暴露の際には、縮瞳、呼吸困難、筋肉麻痺などを起こします。
(b) ピレスロイド系殺虫成分
- ペルメトリン
- フェノトリン
- フタルスリン
殺虫作用は、神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害によるものです。
速やかに自然分解するため、家庭用殺虫剤に広く用いられます。
フェノトリンは、シラミの駆除で、唯一人体に直接適用されるものです。
(c) カーバメイト系殺虫成分、オキサジアゾール系殺虫成分
カーバメイト系殺虫成分:
- プロポクスル
オキサジアゾール系殺虫成分:
- メトキサジアゾン
いずれもアセチルコリンエステラーゼを可逆的に結合し阻害することで、殺虫作用を示します。
ピレスロイド系殺虫成分に抵抗性を示す害虫の駆除に用いられます。
一般に有機リン系殺虫成分に比べて毒性は低いです。
(d) 有機塩素系殺虫成分
残留性や体内蓄積性の問題から、殺虫成分としてオルトジクロロベンゼンがウジ、ボウフラの防除の目的で使用されているのみです。
殺虫作用は、ピレスロイド系殺虫成分と同様、神経細胞への直接作用です。
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどは有機塩素系殺菌消毒成分です。
殺虫と殺菌消毒は分けて覚えましょう。
(e) 昆虫成長阻害成分
- メトプレン
- ピリプロキシフェン
- ジフルベンズロン
直接的な殺虫作用ではなく、昆虫の成長を阻害する成分で、有機リン系殺虫成分やピレスロイド系殺虫成分に対して抵抗性を示す場合にも効果があります。
メトプレン、ピリプロキシフェン:
幼虫が十分成長して蛹になるのを抑えているホルモン(幼若ホルモン)に類似した作用を有し、幼虫が蛹になるのを妨げます。
ジフルベンズロン:
脱皮時の新しい外殻の形成を阻害して、幼虫の正常な脱皮をできなくします。
(f) その他の成分
① 殺虫補助成分
殺虫効果を高める成分として、ピペニルブトキシドやチオシアノ酢酸イソボルニルなどがあります。
② 忌避成分
ディートは、医薬品又は医薬部外品の忌避剤の有効成分として用いられ、最も効果的で効果の持続性も高いとされています。
またイカリジンは、年齢による使用制限がなく、蚊やマダニなどに対して効果を発揮します。
ポイントテスト2
下記問題を正誤で答えよ(回答は下)
(1)フェノトリンは、アセチルコリンエステラーゼと不可逆的に結合してその働きを阻害することにより殺虫作用を示す。
(2)プロポクスルは、アセチルコリンエステラーゼと可逆的に結合してその働きを阻害することにより殺虫作用を示す。
(3)フェニトロチオンは、神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害することにより殺虫作用を示す。
(4)メトプレンは、幼虫が十分成長して蛹になるのを抑えているホルモン(幼若ホルモン)に類似した作用を有し、幼虫が蛹になるのを妨げる。
回答と解説
ポイントテスト2
(1)×:フェノトリンは神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害。
(2)〇
(3)×:フェニトロチオンはアセチルコリンエステラーゼと不可逆的に結合して阻害。
(4)〇
3)殺虫剤・忌避剤の剤形・用法、誤用・事故への対処
主な剤形、用法
(a) スプレー剤
医薬品を空間中に噴霧するもので、原液を水で希釈して噴霧に用いる製品もあります。
(1) 衛生害虫に直接噴射
(2) 害虫の住処に噴霧(残留噴射)
(3) 空間への噴射(空間噴射)
(b) 燻蒸剤
空間噴射の殺虫剤のうち、容器中の医薬品を煙状または霧状にして一度に全量放出させるものです。
霧状は煙上に比べ粒子が微小で短時間で部屋の隅々まで行き渡るというメリットがあります。
使用時は窓を閉め切り退出し、使用後は喚起を行います。死骸を取り除くために掃除機をかけることも重要です。
(c) 毒餌剤(誘因殺虫剤)
殺虫成分とともに、対象とする衛生害虫(主にゴキブリ)を誘引する成分を配合したものです。
(d) 蒸散剤
殺虫成分を基剤に混ぜて整形し、過熱したとき、または常温で徐々に揮散するようにしたものです。
(e) 粉剤・粒剤
粉剤:
殺虫成分を粉体に吸着させたもので、主にダニやシラミ、ノミの防除に散布されます。
粒剤:
殺虫成分を粒状にしたもので、ボウフラが生息する水系に投入して使用されるものがあります。
(f) 乳剤・水和剤
原液を水で希釈して使用するもので、地域ぐるみの害虫駆除で使用されることが多いです。
(g) 油剤
湿気を避ける必要がある場所でも使用できます。
噴射器具を必要とし、一般の生活者が使用することはほとんどありません。
【殺虫剤を使用する際の一般的な留意事項】
殺虫剤を噴霧・散布する際は、なるべく肌の露出度の低い衣服を着用します。
皮膚に付着した場合には、直ちに石けん水で洗い流し目や口に入らないようにします。
【忌避剤を使用する際の一般的な留意事項】
粘膜刺激性があるため、粘膜などに薬剤が触れないようにします。
スプレー剤となっている忌避剤を顔面に使用する場合は、手のひらに噴霧してから塗布するなど、直接顔面に噴霧しないようにします。
ディートは外国において動物実験で神経毒性が示唆されているため、ディートを含有する忌避剤(医薬品及び医薬部外品)は、下記1日使用限度を守る必要があります。
- 生後6ヶ月未満乳児:使用を避ける
- 生後6ヶ月以上2歳未満:1日1回
- 2歳以上12歳未満:1日1~3回
なお生後6ヶ月から12歳未満までは、顔面への使用を避ける必要があります。
ポイントテスト3
下記問題を正誤で答えよ(回答は下)
(1)燻蒸剤使用に当たっては、燻蒸処理が完了するまでの間、部屋を締め切って退出する必要がある。
(2)蒸散剤は、殺虫成分を基剤に混ぜて整形し、加熱したとき又は常温で徐々に揮散するようにしたものである。
(3)忌避剤は、粘膜刺激性があるため、創傷面、目の周囲、粘膜等に薬剤が触れないようにする必要がある。
(4)ディートを含有する忌避剤(医薬品及び医薬部外品)を6才未満の幼児に使用してはならない。
回答と解説
ポイントテスト3
(1)〇
(2)〇
(3)〇
(4)×:6才未満の幼児ではなく、6ヶ月未満の乳児。
ページ内薬剤一覧
殺虫剤 ・忌避剤 | ||||
分類 | 成分名 | 作用・効果 | ||
有機リン系殺虫成分 | ジクロルボス | アセチルコリンエステラーゼと不可逆的に結合して阻害 | ||
ダイアジノン | ||||
フェニトロチオン | ||||
フェンチオン | ||||
トリクロルホン | ||||
クロルピリホスメチル | ||||
プロペタンホス | ||||
ピレスロイド系殺虫成分 | ペルメトリン | 神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害する | ||
フェノトリン | ||||
フタルスリン | ||||
カーバメイト系殺虫成分 | プロポクスル | アセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害し殺虫作用を示す | ||
オキサジアゾール系殺虫成分 | メトキサジアゾン | |||
有機塩素系殺虫成分 | オルトジクロロベンゼン | ウジ、ボウフラの防除の目的 | ||
昆虫成長阻害成分 | メトプレン | 幼虫が蛹になるのを妨げる | ||
ピリプロキシフェン | ||||
ジフルベンズロン | 幼虫の正常な脱皮をできなくする | |||
忌避成分 |
ディート | 効果的で、持続性も高い | ||
イカリジン | 年齢による使用制限がない |